『沈まぬ太陽』山崎豊子

『沈まぬ太陽』山崎豊子

日本航空と、日本航空で実在していた社員の体験に基づいて再構成されたフィクション作品。

 

国民航空に勤める恩地元。

労働組合の委員長として、職場の労働環境を改善するため懸命に活動し、組合員から絶大な信頼を得ていたが、それをよく思わない役員達にパキスタンのカラチへの海外転勤を命じられる。

2年で帰国との約束で、左遷人事を呑んだ恩地であったが、役員達の人事圧力により、2年経つと次はイランのテヘラン、そしてケニアのナイロビへと10年にも渡り、僻地での勤務に耐えていた。

やっと帰国した、恩地を待ち受けていたのは国際旅客営業本部とは名ばかりで、仕事は与えられない、閑離職であった。

そこに御巣鷹山にジャンボ機が墜落し、520名の命が奪われるという航空史上最悪の墜落事故が起きる。

 

 

1〜5巻という長編で、

1、2巻はアフリカ篇上・下

3巻は御巣鷹山篇

4、5巻は会長室編

といった構成になっている。

以下ネタバレを含む感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5巻と、とても長いが、恩地の苦労が報われるのか?早く報われて欲しいと思いながら読み進めた。

今とは異なる、当時のアフリカでの生活もとても興味深いものだった。

 

しかしそれにしても、一人の社員の運命を会社がこんなにもひどく扱うのかと思うと恐ろしい。

人間というのは、こうも身勝手で自分のことしか考えていないのかと、闇の部分を見ていて、辛かった。

夫も、ある時に職場の上の方に、「妬み嫉みに気をつけて」という言葉をもらったことがあったのだが、きっと、この方も大変な思いをしたことがあったのだろう。

きっと、人間の闇の部分を感じざるを得ない時が、いつでもどこでもあるのだろう。

だが、そんな世界を見て、精神的にも、社会的にも追い詰められてもなお、信念を曲げない姿勢を貫く、恩地の姿はカッコイイ。

しかし、私が妻だったら夫がこんな目にあっていて、そばでそれを見て、しかも子どもたちに、父がそんな風な扱いを受けているということも知られたくない。家族がバラバラにされるなんて耐えられないと思ってしまった。

恩地のことを遠くから支え、子どもたちを育て上げた妻はすごいなと感心せずにはいられない。

特に、家族は帰国、恩地は新たな赴任先へ向かうための、別れのシーンは寂しさと、悲しみの感情が込み上げて、辛かった。

今みたいに簡単に連絡を取れない時代であるため、余計に寂しさや、心配な気持ちも大きかったのではないだろうか。

  

ジャンボ機の墜落による犠牲者たちや、遺族の描写も詳細に描かれており、読んでいて苦しくなる場面が数多くあった。

損傷の激しい遺体。

それらを見て回って自分の家族の遺体を懸命に探す姿は胸が張り裂ける思いであった。

 

航空業界は華やかに見える世界であるが、闇も多く、何かあったときの責任も大きく大変な世界だ。

恩地が、動物園で見た鏡にうつる自分の姿の上に書かれていた言葉

’’世界で最も危険な動物’’

私利私欲に群がる獰猛で、酷悪な人間。

まさにそうだと思い、とても印象的なシーンであった。

 

結局報われないラストにも、もやもやしてしまう。

ただただ、アフリカの荘厳な光を放つ夕陽が、恩地の心を慈しんでくれることを願いたい。

読んでいる最中は夢にも出てきて、読み終わった後にも、気持ちを引っ張られてしまうほど、感情を揺さぶられるストーリーだった。

 

 

 

Kindle版だと1〜5巻のセットがありました。

 

 



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