『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ
52ヘルツのクジラとは、他のクジラが聞き取れない、高い周波数で鳴く、世界で一頭だけの正体不明の種のクジラです。
その鳴き声は1980年代から様々な場所で定期的に検出されているそうです。
広い海の中、仲間がいるはずなのに何も届かず、何も届けられない、世界で一番孤独と言われているのです。
この本は虐待されていたり、孤独の中から助けて欲しいと声をあげることができない人たちのストーリーです。
主人公の貴瑚は、虐待をされて育ち、就職するはずだったのに、義父の介護を全て押し付けられたため就職もできず、介護に明け暮れ疲弊しているところを同級生の美春と、同僚のアンさんに助け出されます。
その2人のおかげで、楽しく暮らせるようになり、恋人もできて幸せなはずだったのですが、恋人が変わってしまい、アンさんが自殺してしまいます。
新しい人生を誰も知らない所で始めようと、海の見える田舎町に1人引っ越すのですが、そこで虐待を受ける喋れない少年と出会い、少年の声を聞くために、奮い立ちます。
そして貴瑚自身も立ち直っていくのです。
あまりにも悲しく重い出来事が襲ってくるので、読んでいて苦しくなりました。
実際に世の中にはたくさん虐待を受けているけれど、助けを求められない人や、性と心の不一致のために苦しむ人など、きっと多くいるのだろうなと思いました。
苦しい場面が多いのですが、震えるほどに心に刺さる場面も何度かありました。
特に、夜の海辺で少年に一緒に暮らそうと想いを伝え、少年がその想いを受け取り、クジラが水しぶきをあげるシーンは印象的でした。
そして実際にいる52ヘルツで鳴くクジラ、いつか仲間に出会えるといいなと思わずにはいられませんでした。
さいごに
クジラについてちょっと調べてみたら、人間の声の真似ができるクジラもいるそうで、クジラの凄さに驚きです。
いつかクジラたちの海の中での歌声や会話を、人間が理解できる日がくるのかな?
そんな日がきたらいいな。
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