『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』宮田珠己
自宅にある苔の庭を愛するアーサー・マンデヴィル。
ある日、ローマ教皇から派遣された修道士が訪ねて来て、旅に出かける準備をするようにと命じられる。
修道士の後ろには、何年も会っていなかった異母兄弟のエドガーがいた。
弟と共に教皇から呼び出されるということは亡き父、ジョン・マンデヴィルがかつて教皇へ献上した「東方旅行記」という書物に関連する件だとすぐさまアーサーは考える。
「東方旅行記」とは、故郷イングランドからイスタンブールを経て、エルサレムやバビロン、さらにその東方にあるオリエントの国々を34年もの長い年月をかけて回り、その旅先で見聞きした諸々の事柄を書き記したものである。
しかし、これは、父の嘘が記されているのである。
なぜならば、父がオリエントを旅していた期間とされる時に、アーサー・マンデヴィルがイングランドで生まれ、両親に育てられていたからだ。
出版された頃は、大ヒットし、教皇に献上されたと噂が広まったが、巷ではイカモノ説が囁かれたりもしていた。
あれから13年もの年月が経ち、世間は父のことを忘れ、ローマ教皇からもなんの音沙汰もなかったので、狂人の戯言と見逃してくれていたと思っていたのだが、修道士が訪ねてきたということは、そうではなかったのだ。
その一ヶ月後、迎えにきたペトルスという修道士に連れられローマ教皇と謁見することとなり、ローマ教皇に東方旅行記が素晴らしい書物であると褒められる。
ローマ教皇から現在ローマは、異教徒の謀略によって、危機状態の最中にある。
東方旅行記によると、異教徒の土地のさらにその先には3つのインドがあり、そのすべてを祭司ヨーハンネス、すなわちプレスター・ジョンなるキリスト教徒の王が治めており、配下には、62〜72の王国があり、1万の騎兵と10万歩兵が付き従うのだという。
もし、その広大な国の王が、真のキリスト教徒であるならば、同盟を結び、サラセン人を挟み撃ちにして、異端者を蹴散らすことができるため、協力を必要としているが肝心のプレスター・ジョンの所在がはっきりわかっていない。
200年前にプレスター・ジョンから書簡がどといたことがあり色んな憶測がある中で、既に何人かの使節を向かわせたが、数ヶ月前から連絡が途絶えている状況であることを告げられる。
そこで、アーサーとエドガーはプレスター・ジョンに書簡を届けるよう命じられるのである。
そしてアーサーは、好奇心旺盛で書物好きの不思議な弟エドガーと、柄の悪い修道士ぺトルスと共にありもしない国を目指して旅に出ることとなる。
旅先では女しか住んでいない島や、巨大な蟻が守る金の山、美人がなる樹、黄金に輝く国などがあり、とてもユニークで面白い。
ぜひ映画でも見てみたいと思うような想像力をかき立てられるようなファンタジーで、ストーリーの世界観にグッと惹き込まれていく。
また、網代幸介さんによる表紙と、中のじゃばら仕立ての挿絵がとても可愛いのもこの本の魅力だ。
物語を読んだ後には、挿絵をたどりながら網代さんによるネタバレありのひとこと解説も楽しめるようになっている。

ファンタジー好きにはオススメの1冊。
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