『象の旅』ジョゼ・サラマーゴ

『象の旅』ジョゼ・サラマーゴ

1551年、ポルトガル国王はオーストリア大公の婚儀のお祝いとして象を贈ることを決めた。

象使いのスブッロは、象のソロモンの肩に乗り、象を護衛する隊員達と共に出発する。

行く先々で、人々に驚きや感動を与えながら、ウィーンまでの長い旅路をひたすら歩き続けることとなる。

海や冬のアルプスを越えていく、史実をもとにした壮大な旅のストーリー。

このストーリーは、作家のサラマーゴがレストランへ食事に行った時、店内に並べられた小さな木製の彫刻が気になり、訊ねたことがきっかけとなっている。

その彫刻の列の端には、リスボンのベレンの塔があり、それに続いてさまざまなヨーロッパの建造物や史跡が並んでいて、ジョアン3世の治世時に、象がリスボンからウィーンまで連れてこられたと教わり、ここに物語があるとピンときたそうだ。

時折サラマーゴも出てきて、語っている。

かぎかっこや、改行などもなく、ツラツラと続く独特の文体となっている。

 

スブッロの考え方や発言は面白く、象と一緒にウィーンへ着いたら、何をする?とスブッロが訊ねられた時の返事が印象的だった。

「リスボンと同じでしょう、たいしたことはしません。」

「象は、大勢に拍手され、見物され、あっという間に忘れられるんです。それが人生というものです。喝采と忘却です。」

また、子牛と一緒に群れからはぐれてしまった雌牛が、12日間も狼に囲まれながらも、子牛にお乳を与えながら耐え抜いた雌牛がいた。

その後雌牛は発見されて救出されるが、その数日間で野生化してしまい、自衛の術を覚えてしまったがために、自身の飼い主に殺されてしまった話も印象的であった。

私は2年ほど前まではタイで、象の背に乗って散歩や、エレファントショーで、子どもの象が鼻でポンポンとしてくれたり、大人の象は絵筆を鼻で持ち、見事に絵を描いて見せくれたので、可愛い、凄いと思い、一気に象という動物が好きになったのだが、人間の都合で、動物達の運命を動かしていることについて、とても考えさせられた。

ここ数年、こういう動物愛護的なことを考えることが少し増えてきたので、余計に私にはスブッロの考えや言葉は響いた。

 



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