『ガラスの海を渡る舟』寺地はるな
発達障害の診断は受けていないけれど、苦手なものがたくさんあり、みんなと同じ行動がとれない兄の道。
平均的になんでもこなせるけど、特別に憧れる妹の羽衣子。
祖父が亡くなったことをきっかけに、祖父が営んでいたガラス工房を、2人で引き継ぐことになります。
感情がコロコロ変わってキーキー嘆く羽衣子がいない方が作業が楽だと感じる道と、いちいちめんどくさい兄と思っている羽衣子。
道の骨壷作りに反対をしていたりと、全然合わない2人でしたが、少しずつ心を通わせていきます。
「他人の感情って、天候なんかと同じやなって。ぼくがコントロールできるものではない、という意味では、雨が降ったら傘をさすみたいに対処すればええんやって思うようになった。」という道の言葉にはなるほど!とい思いに。
「こんなにお孫さんに慕われて、お幸せだったと思います。」と言われた道は、祖父が幸せだったかどうかなんて、誰にもわからない。だけど、そうだったらいい。そうだったらいいと思うけど、やっぱいりぼくは祖父ではないからわからない。自分が「そうだったらいい」という願望を都合よく真実だと思いこむのは、すごくずるいことだ。
「羽衣子にとっての『特別』とか『ふつう』は、ただひとりの特別な人間と、同じようなその他大勢の人ってことなんかもしれん。けどぼくにとってはひとりひとりが違う状態が『ふつう』なんや。羽衣子はこの世にひとりしかおらんのやから、どこにでもおるわけやない」
道のまっすぐな気持ちや言葉には心が洗われ、読み終わった後は、なんだかふんわり優しい気持ちになる、そんなストーリーでした。
本の装丁もとても美しいです。
表表紙では、舟を1人で漕ぐ男性と、ガラスの中に背を向けた女性。
裏表紙では、表表紙の2人がガラスの中で一緒に舟に乗っています。
きっと道と羽衣子。
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