『空色勾玉』荻原 規子
「なくなるから、美しい」
儚さの中にある美しさ——そんなテーマに心が震えたことはありますか?
『空色勾玉』は、古代日本をモデルにした幻想的な世界を舞台に、命、信念、そして運命をめぐる深い物語が、静かに、しかし力強く描かれています。神話のような壮大さと、繊細で透明な心の機微が同居する、美しくて切ないファンタジー小説です。
あらすじ:神話のような世界で出会うふたりの運命
この物語の舞台は、古代日本を思わせる架空の世界。
「闇の民」の巫女である少女・狭也(さや)と、「輝の御子」稚羽矢(ちはや)は、敵対する立場にありながら、命のあり方や国の未来について心を通わせていきます。
物語は神話のような壮大さを持ちながら、同時に静かで繊細な心の物語でもあります。
愛、信念、そして「滅びゆくものの美しさ」を巡るこの物語は、十代の読者にも大人の心にも深く響く名作です。
印象的だったシーン
物語のスケールの大きさと同時に、静かに語られる「移ろいの美しさ」に心を打たれました。
なかでも、私がもっとも心に残ったのは、狭也が稚羽矢に豊葦原の美しさを語る場面でした。
「たとえば、この泉の水は澄んでいるでしょう。こんなに清らかなのは、ここの水がたえず新しくわいて出て、いっときも淀んでいる暇がないからだわ……」
荻原規子. 空色勾玉〈新装版〉 (p. 308). (Function). Kindle Edition.
永遠で不変の美しさよりも、「移ろいゆくこと」にこそ尊さがあると語る狭也。
木の葉が黄金に染まり、やがて散り、また芽吹く。その循環のなかに、命の気配と神聖さを見出す視点が、静かに、でも確かな力で響いてきました。
それは、自然の美しさだけでなく、人間の生や関係にも通じているように思います。
失うことを恐れて手を伸ばしてしまう、そんな私たちに「とどめようとすると、美しさも清らかさも失われてしまう」と優しく教えてくれるようです。
読み終えて感じたこと:終わりがあるから、大切にできる
この物語を読み終えて強く感じたのは、「今あるものを慈しむ気持ち」の大切さです。
いつか終わってしまうからこそ、いま目の前にある季節や風景、人との時間を大切にできる。
そして、それを無理にとどめようとすれば、美しさも清らかさも失われてしまう。
狭也のまなざしは、そんな儚くも確かな真理を、静かに語りかけてくれているようでした。
「なくなるから、美しい」
当たり前のようで、でも忘れがちなこの感覚を、私はこの物語にもう一度教えてもらった気がします。
さいごに:この物語が、そっと寄り添ってくれるかもしれません
ファンタジーという枠を超えて、心に深く染み渡る物語。
少年少女の成長物語としても、大人のための静かな人生の寓話としても読むことができます。
もし今、立ち止まりたくなるような日々のなかにいるなら…
この本が、あなたの隣でそっと灯りをともしてくれるかもしれません。
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