友人に勧めてもらって読んでみた本。
タイトルの『終わった人』からして、どこか物悲しさが漂っていて、読む前からちょっと身構えてしまいました。
あらすじ
定年って生前葬だな。
内館牧子. 終わった人 (講談社文庫) (p. 4). (Function). Kindle Edition.
そんな強烈な一言から、この物語は始まります。
主人公は、エリート街道を歩んできた元銀行マン・田代壮介。
63歳で定年を迎え、「やっと自由な時間が持てる」と思ったのも束の間、待っていたのは予想外の空虚さでした。
自由な時間が増えるはずが、やることもなく、妻には煙たがられ、自分の存在価値が揺らぐ日々。
生き甲斐を求め、居場所を探し、惑い、あがき続ける男の姿がリアルに描かれています。
『終わった人』内館牧子
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印象に残った言葉と場面
散り際千金だ。
内館牧子. 終わった人 (講談社文庫) (p. 5). (Function). Kindle Edition.
作中に何度も出てくることば。
「・・・年齢や能力の衰えを泰然と受けいれることこそ、人間の品格よ」
内館牧子. 終わった人 (講談社文庫) (p. 193). (Function). Kindle Edition.
老いを否定するのではなく、どう受け入れるか。
そして、どうやって人生の後半を生きていくのか。
引き際に着いて、この物語は、そんな問いを私たちに静かに投げかけてきます。
ああ、俺が若かったなら、俺がせめて四十代だったなら、ここにいる全社員を基礎に会社を起こすのに。 俺はもう六十五なのだ……。
内館牧子. 終わった人 (講談社文庫) (pp. 274-275). (Function). Kindle Edition.
やりきれない気持ちと、老いという現実の重さが静かに押し寄せてくるような場面で、特に心に残りました。
「あと20年早ければ」と悔やむ壮介の言葉には、まだやりたいことがある、まだ自分は終わっていない。そんな思いがにじんでいて、読んでいて胸が締めつけられました。
情熱があるのに、年齢という“もう取り戻せないもの”が目の前に立ちはだかり、若い頃には見えなかった“限りある時間”が、現実としてのしかかってきます。
それは誰の人生にもいずれ訪れる、避けがたい事実なのだと、改めて突きつけられた気がしました。
さいごに
老いを否定するのではなく、どう受け入れ、どう生きるか。
自分の老い、自分の限界、自分の価値。
それらと真正面から向き合う主人公の姿には、人間らしさがあふれていました。
「自分だったらどう生きるか?」
定年となる年齢はまだ先ですが、読後は自然とそんなことを考えさせられます。
定年後の生き方に限らず、人生の“節目”に立つすべての人に、そっと寄り添ってくれるような物語だと感じました。
『終わった人』内館牧子
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