『ラダックの星』中村安希

ラダックの星

ラダック、インド北部に位置している秘境の地。

そんな場所で見る「星」

装丁も星空で美しく、どこか幻想的で、静謐で、何か大切なものが描かれていそうな予感がして手に取ってみました。

あらすじ

「人生観をその根底からひっくり返してしまうような、ものすごい星空に出会うこと」

そんな目的を胸に、標高の高い厳しい環境の中で過ごした、25日間にわたる旅の記録です。

この旅は、ただ星を追いかけるだけの旅ではありません。

壮大な自然や出会い、静かな時間の中で、過去の記憶や後悔、喪失と向き合う旅でもあります。

『ラダックの星』中村安希
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印象に残った場面

標高五六〇〇メートル。このくらいまで登ってくると、星空の下にいる気がしなかった。私たちは今、星空の中にいる。

中村安希.ラダックの星(潮出版社)(p.243)

ラダックの名峰、ストック・カンリ登頂に挑戦中、凍傷になりそうなほどの過酷な状況のなかでの言葉です。

「星空の中にいる」という感覚・・・

想像しただけで素晴らしい光景が目に浮かびます。

もう10年以上も前になりますが、深夜便の飛行機の窓から満天の星を眺め、

「私は星空の中を飛んでいるのかもしれない」と感じたことがあります。

そのときの光景と感動を、この一文が一気に思い出させてくれました。

私は飛行機の中からでしたが、著者は生身の体で、全身でその空間を体感しています。

そのすごさと神秘に想いを馳せずにはいられません。

・・・背負っていたザックをいったん逆さまにして中身ぜんぶ床にぶちまけ・・・本当に必要なものだけを詰め直していくような作業だった。

中村安希.ラダックの星(潮出版社)(p.243)

人生の半ばで、自分が背負ってきたもの。

価値観や人間関係、過去の自分をいったん全部見直すということ。

それは、「何かを捨てる痛み」と「軽くなることへの不安」が背中合わせになっている、とても繊細な作業なのだと、この一節を読んで感じました。

持っていてももう使わないとわかっているもの。でも、手放すには少し寂しいもの。

そして、軽くなったザックを背負ったときに感じる、妙な心細さ。

その感覚が、私にはとてもリアルに感じました。

残念ながら会えなかったんじゃない。会わなかっただけだ。会いに行こうとしなかっただけだ。最後まで。ミゾキが死んでしまうまで。

中村安希.ラダックの星(潮出版社)(p.245)

かつて、自分が遠ざけてしまった相手。あのとき、なぜあんな風にしか言えなかったのか。

借り物の東京の言葉で、地元の幼なじみを冷たく突き放してしまった過去。

その記憶と向き合う筆者の姿も、深く心に残りました。

きっと今まで、どこかで見ないようにしていた思いに、この旅でようやく向き合ったのだと思います。

さいごに

ただただ星が綺麗という物語かなと思って読み始めたこのは思いがけず、過去と今、自分と向き合う時間が刻み込まれていました。

また、これまで自分が見てきた星空を思い出し、思わず立ち止まってしまう瞬間が何度もありました。

時間を超えて届く光・・・

星を見て過去を思う。

過去を見つめたいときは、
星空を見上げるのがいいのかもしれませんね。

ラダックの星空、いつか見てみたい。
そんな余韻の残る一冊でした。

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