『羊は安らかに草を食み』宇佐美まこと
認知症になった86歳の益恵。
益恵の現夫の三千男は、過去の断片が、まあさんを苦しめ、それまで理性で押さえつけていた物が溢れ出してきているという気がしてならない、まあさんの心のつかえを取り除いてあげたいと考えていました。
そこで益恵の人生をたどる旅をしてほしいと、益恵と出会って20数年の仲になる80歳のアイと77歳の富士子に依頼します。
益恵とアイ、富士子の3人は人生で最後になるであろう旅に出かけることとなります。
今まで決して多くを語らなかった益恵の過去が、益恵の詠んだ俳句と共に明らかになっていきます。
「背を向けるむくろを照らす赫き夕陽に」という句は満州での壮絶な戦争体験でした。
実際にこういうことがあったんだろうと考えると、胸が張り裂ける思いになります。
孤児となった益恵と、途中で出会った同じく孤児となってしまったカヨ。
わずか11才の少女たちが生きて日本に帰るためにお互いを支え合い、知恵を絞り、懸命に立ち向かう姿は心を打たれます。
2人は日本に帰国し、お互い結婚し子どもを育てていたのですが、ある時を最後に2人は2度と会わない約束をしていました。
その約束の理由が、旅の最後カヨに会いに行くことで明らかになります。
またラストは驚きの展開でした。
アイや富士子の友を思う気持ちと行動はとても温かく、頼もしくありました。
先が短いという老人の底力も逞しく、清々しい気持ちにもなりました。
戦争により人生を壊された人は多くいます。
私の曽祖母も戦争で夫、私の曽祖父を亡くしています。
祖母は戦時中に生まれています。
私は幼い頃、曽祖母と一緒に寝る時、お布団の中で、よく戦争の話や、昔の話を色々聞いていました。
戦争を実際に経験している人の生の声。
曽祖母はもう亡くなってしまいそんな話を聞くことも無くなってしまいました。
もっともっといっぱい聞いておきたかったし、今でもたまにふと、話を聞きたいなと思うことがあります。
戦後75年を超え、こういった話を聞けることは随分と減っている中、この本で描かれていることはとても大切なことで、決して忘れてはいけないことだと思いました。
この時代を生き抜いた人たちに、改めて畏敬の念を抱かずにはいられないストーリーでした。
コメントを残す