『赤と青のガウン オックスフォード留学記』彬子女王

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『赤と青のガウン オックスフォード留学記』彬子女王

『赤と青のガウン』は、皇族である彬子女王が、イギリス・オックスフォード大学で博士号を取得されるまでの約5年間と、それ以前の短期留学の体験を綴ったエッセイです。

正直、私は学歴があるわけでも、英語が堪能なわけでもない。だけど、「皇族の留学記」というタイトルに惹かれました。
まったく縁のなさそうな世界だけれど、だからこそ読んでみたくなったのかもしれません。

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印象に残ったエピソードたち

とりわけ胸を打たれたのは、以下のような場面です。

「生まれて初めて一人で街を歩いたのは日本ではなくオックスフォードだった。」

彬子女王. 赤と青のガウン オックスフォード留学記 (PHP文庫) (p. 34). (Function). Kindle Edition.

この一文には、皇族というご身分ゆえに常に誰かと行動を共にしていた著者が、慣れない土地で初めて「一人」になるという、大きな環境の変化と心の揺れが凝縮されています。

また、英国女王とのお茶のシーンでは、思わず微笑んでしまいました。

「女王陛下がさっとお茶を入れてくださり、お菓子を勧めてくださった。…たいへん失礼ながら、お茶をお入れくださったそのお姿が、私の祖母と重なり…」

彬子女王. 赤と青のガウン オックスフォード留学記 (PHP文庫) (p. 88). (Function). Kindle Edition.

皇室と王室、格式と人間味、そのはざまにある温かな空気を感じました。

また、マートン・カレッジのメインライブラリー「OWL」についての描写も心に残りました。
昔の学長の邸宅を図書館として使っているとのことで、重厚な内装やオーク材の本棚に囲まれた空間が「まるで中世の貴族の書斎のよう」と表現されていて、とても魅力的でした。
オックスフォード大学を画像検索しては、こんな世界があるのか…と驚いてしまったほど。
学生時代にこの雰囲気を知っていたら、もっと勉強していたかも?なんて思ったりもしました。

本書から学んだこと

この本を通して、オックスフォード大学の文化や伝統、そして日本とイギリスの生活習慣や価値観の違いについても知ることができました。

例えば、絵画の文化の違い。

「西洋の絵画は…持ち主の人となりを表わすという機能がある。…でも日本の絵画の場合は少し違う。部屋のなかに季節感を生むという機能が中心となる。」

彬子女王. 赤と青のガウン オックスフォード留学記 (PHP文庫) (p. 76-77). (Function). Kindle Edition.

同じ「絵画」でも、それをどう飾るか、どう意味づけるかは国や文化によってまったく異なるということに、あらためて気づかされました。

そして、博士論文にまつわるエピソードでは、思わず自分にも当てはまるかも…とドキッとしました。

「おいしそうな材料を買ってきたあとで、『さぁ、何をつくろうかな』と考える…この考え方をする人間は…研究者には向かないのである。」

彬子女王. 赤と青のガウン オックスフォード留学記 (PHP文庫) (p. 236). (Function). Kindle Edition.

私自身も、つい気になる情報を集めすぎてしまい、何をテーマにするのか見失ってしまうことがあります。学問の世界の厳しさと、著者の素直な自己分析に励まされました。
論文を書く機会はありませんが、ふと「もし自分が書くなら…」と想像しながら、ふむふむと読み進めていました。

皇族として、ひとりの留学生として

本書の魅力は、彬子女王が「皇族」としての視点と、「ひとりの留学生」としての視点を行き来しながら書かれているところです。護衛がいない寂しさや、海外渡航時の皇室ならではの所作(天照大神への参拝など)も描かれており、一般にはなかなか知り得ない世界も垣間見ることができます。

「皇族は海外旅行に出かける前…賢所に参拝し、…帰国後も同様に報告と感謝を行う」(p.122)

こうした背景を知ることで、より深く彬子女王の立場に思いを馳せることができます。

さいごに

静かな文体の中に、葛藤や戸惑い、そして学ぶ喜びがじんわりとにじみ出ている本書。異国で暮らした経験のある方、これから留学を考えている方、あるいは文化の違いや学問に興味がある方には、ぜひ読んでみていただきたい一冊です。
もし、学生のころにこの本と出会っていたら、私はどんな進路を選んでいただろう?
そんな「もしも」を考えたくもなる一冊でした。

知らなかった世界を覗かせてくれる本は、それだけで宝物のような存在です。

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